2017年4月14日金曜日

お女郎縁起考その2

赤山城跡碑

過去の記事

お女郎縁起考その1
http://araijyuku.blogspot.jp/2017/03/blog-post.html

 

赤山役所の検分

 このように何の手がかりもないお女郎。しかし、石神村は赤山領(関東郡代伊奈氏の領地)。領民が赤山役所と呼んだ陣屋のお膝元です。領内、支配地での行倒れ者、変死者の調査は代官の仕事ですので、当然赤山役所の役人が検分に来ているはずです。役人は死者の身体的特徴、身なり、発見時の状況などを書きまとめ、これを近在の村々に御触れ出します。これらのことは伝説にはないのですが、当然このような手続きがとられたことでしょう。しかし該当者はなかった。当時の役人がこういう案件にどこまで捜査するのかわかりませんが、江戸時代は百姓や町人など庶民への支配は連帯責任や相互監視などの法律で徹底的に行われていたので、領民・支配民のことはかなり細かく把握していました。江戸時代に犯罪率が低かったのはこの支配制度によるのです。しかし、一歩他領や寺社地に足を踏み入れるとその捜査権が及びません。この天明・寛政のころは大飢饉や打ち壊しなど不穏な社会情勢になり関東各地で盗賊団が跋扈するなど大荒れの時代でした。役人が犯罪者を追い回しても他領に逃げ込まれてしまい検挙率が大幅に低下しました。これがのちに八州回りと呼ばれる関東取締出役という私領、公領にとらわれない捜査権を持つ機関の設立につながっていきます。


越後新発田藩(しばたはん)


新発田藩溝口家家紋
 
話はそれましたが、伊奈家の調べで該当者なしとなれば他の大名・旗本領あるいは寺社領。そして江戸町奉行の管轄下の人間になります。無宿人は町奉行も把握していませんがお女郎はあたらないでしょう。赤山役所、また、当時の役人がこういう事案で他の役所と連携して捜査したかはわかりません。代官所も町奉行所も激務なので普通に考えればやらないでしょう。特に当時の伊奈家は改易の原因になった家中の内紛で機能不全に陥っていたので、検分に来て終りだったということも十分考えられます。関東の治安が悪化した原因は天明の大飢饉という天災が大きいですが、田沼意次と松平定信の権力争いによる権力の空白と伊奈家の混乱により一時的に治安能力が低下したことも大きかったのではないでしょうか。
 ただ、ここで気になるのが先程の「越後新発田藩藩主の御落胤」という噂。これが何処から出てきたのだろうか?発見者の名主石井伝右衛門はじめ村人、近在の村々も含めて、さらに後の創作だとしても到底百姓の発想ではありません。御武家の娘さんという想像は出来ても越後の新発田藩、しかも藩主の落し種などというのは百姓の頭の外にあるというものです。僕はこの噂の出どころが赤山役所ではないかと思っています。当時新発田藩では「清涼院様一件」という藩を揺るがす騒動がありました。清涼院という藩主の祖母が寵臣を使って藩政を壟断し、重臣たちとの対立で危機的状況に陥っており、ついには老中松平信明が仲裁に入り清涼院の寵臣相葉七右衛門を罷免して決着しました。これが前年寛政元年(1789年)4月の事です。

このようなお家騒動が伊奈家の耳に入り、家臣手代の誰かが、あるいはそんなこと(御落胤)があるやも知れぬ。と地元民に漏らしたのではないか?と思います。じつは新発田藩の下屋敷は本所菊川町にあり、関東郡代管理の本所牢屋敷がすぐそばにありました。元々本所深川は伊奈家の庭のようなところなので、そういう極秘情報も耳に入ったかもしれません。
 また、これが有力なのですが、伊奈家で代々家老や重職を務めた大河内一族は清涼院の実家である大河内松平家とは遠い親戚にあたります。また、大河内宗家の秀綱、久綱はともに初代伊奈忠次の配下でした。(秀綱は久綱、正綱の父。正綱は大河内松平家の初代。久綱の次男信綱は伯父の正綱の養子になり松平伊豆守信綱と名乗り川越藩主となり老中を勤めた。清涼院はこの信綱の系になる。)このように伊奈家重臣の大河内家、また伊奈家と清涼院の実家とは近い関係にあったので、この騒動の事も聞き及んでいたかも知れません。伊奈家自体が同時期に深刻なお家騒動の渦中にいたので、このなりゆきに関心が強かったという想像もできます。実際に新発田藩藩主溝口直候に18,9歳の御落胤あったとは年齢から考えにくく、たまたま伊奈家家中で話題になっていた新発田藩の騒動の事が赤山領下の百姓に伝わりそれがお女郎と結びついたのではないかと考えます。まあ考えすぎだと思いますが。いずれにしても新発田藩の件は当時もその後も村人たちからの発想とは考えにくく、赤山役所の人たちが関っているように思うのです。彼らは実際に町奉行や新発田藩などに問い合わせたのかもしれませんね。

次号に続く。
 お女郎縁起考その3
http://araijyuku.blogspot.jp/2017/05/blog-post.html

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